蒸発したブラックホール その11 停滞と進化

爆発的進化に期待! 

 このシリーズも11回目になりました。私の日記を読んでいる人の中には、内容が懐古趣味では、と見ている人も、少なからず、いるのと思いますので、今回は、そのことについて書きたいと思います。
 私は料理でも生命進化においても、必ず進化する時期と停滞する時期があると考えています。恐竜が全盛を誇った約2億5000万年前〜約6500万年前までの中生代の、1億8500万年間は、我々ほ乳類は、せいぜいネズミか猫程度の大きさしかありませんでした。 しかし、恐竜が絶滅した6500万年前から、たった1000万年間で再度海に進出した巨大な鯨や空を飛ぶコウモリまで、爆発的な進化を遂げました。このように生物の進化は、停滞期と爆発的な進化期とを繰り返しながら、多様性を広げてきたと考えています。料理も同じで停滞期と爆発的な進化期とが交互に繰り返してきたものと言えます。今の江戸前の食文化も17世紀後半の江戸時代元禄期の近代になってから爆発的な発達を遂げました。にぎり寿司や天ぷらや鰻の蒲焼き、なども、この時代以降に発達したものです。
 フランス料理もそれまでの煮込みや重いソースで誤魔化す料理から素材本来の力を生かす料理方法のヌーベル・キュイジーヌが出現したのは、ほんの50年くらい前のル・ピラミッドのフェルナン・ポアンから始まった流れだと考えます。さらに、その門下生のポール・ボキューズアラン・シャペルやルイ・ウーティエやトロワグロ兄弟らがフランス料理を劇的に進化させました。その時期は、まさに百花繚乱の素晴らしい時代でした。
 恰も暗黒の中世を終わらせた、ルネサンスや恐竜絶滅後のほ乳類のような状態だったのではなかったでしょうか。
 ところがアラン・シャペルが亡くなり、ジョエル・ロビュションが引退した頃から、この流れに大きなブレーキが掛かり、停滞期に入ってしまったような状態になりました。今話題のキュイジーヌ・コンテンポラリーや分子料理法などは、進化の本道ではなく奇をてらった目先だけのあだ花料理のように感じてなりませんし、哀れミシュランなどはその片棒を担いでいるだけと断言できます。
  またフランス料理と同じでロックミュージックもレッドツエッペリンやクイーンやピンクフロイドのライブを何度も聴きに行っていた、青春時代から考えると、今は見る影もなく疲弊してしまってる停滞期だと思えてなりません。
 しかし、ほ乳類がそうであったように、停滞期間が長ければ長いほど、一旦開闢した後には、素晴らしい爆発的進化が起こると私は信じています。

 私と同じようにキュイジーヌ・コンテポラリー全盛の料理に懐疑的な、バンコク・オリエンタルホテル、ル・ノルマンディのシェフ、カルロス・ガウンデシオが作るフォアグラとフルーツを組み合わせた新感覚のテリーヌなどを見ていると、その迫り来る胎動を感じざるを得ませんし、これからが楽しみだと思います。

 それとは逆に、羅安総料理長が率いる香港福臨門の料理は今が絶頂期の真っ直中にいるのではないかと考えています。
 四千年の中華料理の歴史上、最高の料理が今、思う存分に食べられる幸せを大いに謳歌したいと思っています。私は、たぶん羅安さん以降は暫く広東料理は停滞期に入るのではと考えています。だから今はヨーロッパよりも少しでも多く、香港に足繁く通いたいと思っています。