蒸発したブラックホール その17 究極のポルトの甘み

TAYLOR'S VINTAGE PORT 1945 FLADGATE

 つい先日、レストラン・コバヤシで図らずも開けた伝説のヴィンテージポルトTAYLOR'S VINTAGE PORT 1945 FLADGATE 。その優美で官能的な甘さは人類が生み出した、究極で頂点の甘さだと言えます。ルビーに譬えられる、色合いと、高貴な香りの思い出は10年ぶりに脳裏に鮮烈に浮かび上がってきました。香りの記憶は小脳部分に近い深部が司り、生物学的に本能に近く、深いため強く記憶されて、遥か以前に嗅いだ香りでも、同じ香りを嗅いだ瞬間にハッキリと記憶が蘇ります。今回もグラスに注がれて鼻腔に近づいた瞬間に以前の記憶が超新星のごとく爆発的に蘇りました。
 「旨い」という言葉は「甘い」から転じた言葉だといわれ、悠久の昔より人類が求め続けた究極の味覚ですが、その紛れもない頂点がこのポルトには有ると思います。グレートヴィンテージのシャトー・イケムの甘さには、どこか排他的で孤高のソリッドな甘さを感じますが、ヴィンテージ・ポルトの甘さは、あくまでも優美で優しく、まろやかで、この両者の甘さの違いは実に対照的です。
 ボルドー同様に最近のテイラーのヴィンテージ・ポルトは以前の官能的な深みのある甘さに乏しく、たとえ50年以上寝かせて熟成させても、同じような香りや味にはならないと思います。これも時代とともに失われ行くものの一つとして諸行無常を感じざるを得ません。