食べ手によるフランス料理考察 その1

料理には日常食とハレの料理の二つがあります。

 日常食は毎日食べたい料理、そして食べ飽きしない料理という内容が必須です。美味しいパンに美味しいコンフィチュール、フルーツジュースさえあれば最高の朝食が堪能できますし、香港、羅富記の「皮蛋痩肉粥」など、毎日食べても飽きずに食べ続けられる料理です。私はあまり食べませんが、味噌汁に納豆、海苔とご飯など和朝食も同じだと考えます。

 もう一つ、「ハレ」の日に食べる、食事も存在します。記念日や式典、恋人とのデートなど、特別な日に食べる特別な食事です。これは非日常的な見るからに特別だと思わせるために、貴重な素材や見た目の美しさ、奇抜さ、そして皿数、特別なサービスなどが要求されます。


 外食は、どちらを食べ手が求めるかによって店や料理の内容が大きく異なってきます。以前ほど多くはなくなりましたが、結婚式に於けるフランス料理と言えば「ビーフステーキ」に「伊勢エビのテルミドール」などがその良い例だと思います。ステーキだってテルミドールだって真面目にちゃんと作れば美味しいものですが、大人数分を予め用意して、一斉に出すような宴会料理が美味しいわけはなく、中高年以上の人にフランス料理は、見た目は豪華だけれども美味しくない料理との悪い印象を与えた最大の元凶だと思いますし、今でも、ムニュデェギュスタシオンや分子料理法などキュイジーヌコンテンポラリーを基調とするグランメゾンなどの高級フランス料理店に多く見られる料理スタイルなどもこの系列です。私は、勿論これを否定するつもりは一切ありませんし、自分自身でも時々は食べてたいと望んでもいます。当然ジビエに代表される高級素材も、その演出には欠くことのできない食材だと考えます。ただ私が普段食べたいフランス料理は、日常食なのです。言い換えれば毎日食べたくなるようなフランス料理なのです。これには同じレストランでも日常食とハレの料理を使い分けることも出来ます。中華料理の頂点である、福臨門の普段食べている料理は「家郷菜」と呼ばれる、広東家庭料理を基調とする料理を極限まで洗練させたものです。でも時々は乾貨と呼ばれる高級素材をふんだん使ったハレの料理も訪港中に一度は食べたくなります。フランス料理店でも、普段は豚肉や牛、大衆魚を使った料理を好んで食べますが、旬になればジビエやトリュフをふんだんに使ったものを食べたくなります、ただそのようなハレの料理は毎日は食べたいとは思っていません。

 また量も重要な要素です。基本的にムニュデェギュスタシオンのように、美味しかったんだけれども何を食べたか印象に残らない料理ではなく、好きな料理を量もたっぷりが、日常食としての重要な基本要素です。フランスの地方の星付きレストランや香港福臨門には毎日料理を食べに来る客がいますし、私も近くに住んでいたら、毎日行くと思います(^^;)


 多くの人はフランス料理そのものをハレの料理だと考えている人が主流です。そのため食事の求める内容が、非日常性の強い、「少ない量で多くの皿数」「派手な演出や豪華な盛りつけ」「豪華な内装や眺めの良さ」「華麗でスタイリッシュなサービス」などが店を選ぶ重要なポイントになると考えます。
私が、日常食としてフランス料理に求めるものは「皿数は少なく」、「シンプルな盛りつけで量はたっぷり」、「身近な食材を使いながら極限まで洗練された味付け」、「地に足の付いた、程よいサービス」などが最も重要視するポイントなのです。


 だから時々、あの店の、あの料理が無性に食べたくなります。・・・福臨門の「クリスピーチキン」や「フカヒレ入りスープ餃子」・・・ル・ベルクレイの「ヴィシソワーズ」や「レバーステーキ」・・・バンコク セラドンの「マッサマンカレー」やシャンパレスの「マンゴープリン」等々・・・

ああーっ!また思い出してしまいました。(^^;)