チェンマイ美食日記 2014 その2

 クルア・ペット・ドイ・ガーンで昼食後、やっとの思いでタクシーを捕まえ「チャンプアーク門」まで行き、ソンテウに乗り、北部タイで最も霊験あらたかな「ドイステープ」に向かいます。


山の頂近くに、そびえる金色の寺院は、両親とも来た思いで深い壮麗な建物で、その秘めたるパワーは見るからに圧巻です。寺院からチェンマイ市街地が一望でき、下界よりも1〜2度低い気温は爽やかそのもの。


ドイステープ拝観後、同じソンテウでチャンプアーク門まで戻り、ローカルソンテウに乗り換えて、ホテルに戻り、夜に備えます。


今日の夕食はこの旅最大の目的である。ダラ デヴィ チェンマイのメインダイニング『ファランセ』で、天才シェフ、カルロス・ガウンデシオの料理を堪能する事です。

私と友人は以前、バンコク・マンダリン・オリエンタル時代の彼の料理を食べ、その類い希なれなる才能に衝撃を受け、その彼が新たな活躍の場をチェンマイに移しどのように進化したのかを確かめるためにこの地に来たのです。彼とは日本から何回もメールでやり取りを重ねて、この日に臨みました。

プレオープン時代のエントランス脇に作られたレストランは、荘厳そのもの、ネオオリエンタル調のグランメゾンです。

彼の料理に合わせるワインは、私がChâteau Lafite-Rothschild 1981(シャトー・ラフィット・ロートシルト 1981年)もの、友人はゴッセの「セレブリス・ブラン・ド・ブランシャンパーニュ」と最強ワインを日本から用意して待ち構えます。タイはワインが高く、日本の3倍以上しますが、ほとんどのレストランは持ち込み可能です。タイ人のメートルにタイならこのラフィットだったら10万バーツ以上だと言われましたが、恐ろしい値段です。


席に着くと直ぐに、カルロスが厨房より挨拶に来ました。顔つきが、精悍になったように見受けます。土産の地酒を渡すと、日本の酒だとわかり大いに喜ばれました。どういうものか、ちゃんと判っているようです。


アミューズ(エビのゼリー寄せ)


印象の弱いアミューズです。ゼリーもこれと言った特徴が無く、カルロスのオリジナリティも感じられません。しいて特徴を見つければ彼の好きな花のデコレーションあたりでしょうか?


■オードブル1(玉子のムース キャビアのせ)


インパクトの乏しい、アミューズの心配を一発で吹き飛ばした傑作料理です。ムースのできの素晴らしさ、香り、食感、旨み、塩梅、後味が、あり得ない美味しさ。天才料理人、カルロスの面目躍如の渾身オードブルに2人とも心から打ちのめされました。まさに神のオードブルそのもの、これだけでチェンマイへ来た目的が達せました。シンプルな料理こそ、かれの真骨頂だと感じました。持ち込んだゴッセのシャンパーニュとの相性も完璧。史上最高の卵料理だと断言します。


■オードブル2(シーフードのドレッシング仕立て)


酷い!酷すぎです!神のオードブルの直後にいきなり地獄へ垂直降下! ドレッシングはまるでサウザンアイランドそのもの、濃く、くどく、繊細さの欠片もなし、同じシェフが作っているとは思えない、今回のワースト1確実の駄作です。


■オードブル3(サンジャックのポアレ)


いくら流通網が発達していると言え、北部タイでシーフードは限界があります。その代表のような料理です。前の皿が酷すぎたのに比べれば、マシと言った程度の料理で、美味しさは希薄で感動もなし、カルロスでなくても誰にでも作れそうな中途半端なオードブルです。ロビュション風のデコレーションも虚しく感じます。


■オードブル4(フォアグラのポアレ)


チェンマイでなにも食べなくても良いような、特徴に乏しいオードブルです。とりあえず「フォアグラです!」語っているだけのオードブルで、もっとオリジナリティが欲しいです。これも合格点には達せず、「こんなもんちゃいまっかー!」レベル。


ポアソン(エビのポアレ ムース添え)


今までの酷いオードブルの暗雲を吹き飛ばす、素晴らしいポアソンです。火加減、口当たり、旨みのどれもが高次元でフュージョンし、カルロス独特の世界を演出する傑作料理です。もしもちゃぶ台だったらひっくり返しそうな料理が続いていたので、このゼタ旨ポアソン料理で2人とも溜飲をさげました。添えられているムースの味わいも凄く、エビと合わせるガルニチュールとしては文句ない味わいです。


■ヴィアンド(仔牛のポアレ)


これも特徴に乏しい料理です。チェンマイという土地柄が災いしていると思いますが、もう少し、素材の質、調理方法などの工夫が必要かと思います。やはりバンコクと素材の点で、かなりのハンディキャップがあると思えました。


フロマージュ(盛り合わせ)

これは素材の質、管理状態とも申し分のないフロマージュでした。暑いタイにおいて寒い国のフロマージュをベストの状態で保つことは難しいと考えますので、立派です。


■デセール1(盛り合わせ)


もしこれで終わっていたら、星一徹になっていたと断言できます。それほど酷いデセールです。どれを食べても、それなりの味わい・・・オリジナリティも旨みも乏しい、70点主義のオードブルの盛り合わせ、カルロスの神のデセールは今いずこ。


■デセール2(ブルーベリーチョコレート)


出ました!最終兵器!神のチョコレートケーキ! 凄いです・・・凄すぎます!以前のブルーベリーチョコレートを100マイルの剛速球だとしたら、こちらは抜群の切れ味のフォークボールといった感じです。以前の荒削りのグイグイ押してくるチョコレートも大好きですが、ミリ単位でコントロールされ、大幅に洗練度の増した、今回のチョコレートケーキも凄いです。まさに世界最高峰のチョコレートケーキだと断言します。


世界最高レベルのリゾートホテルと呼び声高い「ダラ・デヴィ」ですが、その華やかさに合わせた料理と言うのも理解できます。しかし、チェンマイバンコクに比べての素材のハンディ、都市の客層とリゾート客の違いなどで、無理をして料理を凝りすぎている気がします。カルロスの料理はクラシックな持ち味を生かしながらシンプルさを極限にまで高めた料理なのですから。

食後に出てきた彼に、我々の正直な気持ちを伝えました。彼なら充分に理解したと思います。でも3皿は本当に凄かったです。これだけで我々は充分に満足です。


次回彼の料理がどのような変化をしているか楽しみです。

http://www.dharadhevi.com/EN/Dining/4