蒸発したブラックホール その20 イタリアの良きリストランテ

Ristorante Ambasciata di Quistello

 私は日本ではほとんどイタリア料理を食べません。理由は中華料理と同じで、イタリアで食べる料理と日本で食べる料理があまりにも違うからです。特にパスタは古くから日本に伝わり独自に進化したため、本国とは全く別物のイタリア料理になってしまいました。トラットリアやパスタ専門店でのイタリアと日本の違いは顕著だと感じます。
 もう一つは量の問題です。以前、北部イタリア湖水地方にある、オーベルジュ“イルソレーレ・ランコ”のマダムから、この店で修行した一番優秀な料理人が東京の広尾で店を開いたので、ぜひ行くように勧められて、帰国後直ぐに行った時に、パスタの量のあまりの違いに愕然とした思い出があります。その店のオーナー曰く、これでも残す人が多いのだそうです。やはり量は重要な要素で、私は特にパスタは、しっかり食べないと食べた気がしません。
 またイタリアでもミシュランの星付きのリストランテでは、アンチパスタやパスタ、ドルチェには素晴らしいものを多く感じますが、メインであるセコンド・ピアットではフランス料理のメインのような魂を揺さぶられるような感激する料理が少ないと思いますし、凝った料理でもフランス料理の焼き直しの料理程度にしか感じません。北部イタリアにある、3つ星のリストランテの“ソリッゾ”やミラノの“ガルテロ・マルケージ”で食事をした時もメインはまるでフランス料理そのものの印象を受けましたし、フランスのトップレストランのレベルには遠く及びませんでした。その他星付きや「エスプレッソガイドブック」の高得点のリストランテでも多くは似たような傾向だと思っています。
 そんな中にあって、中部イタリアのモデナからヴェローナに向かうアウトストラーダ(高速道路)の途中にある、クエステッロ村にある“アンバシャータ”には一時期、足繁く通った時がありました。外観は普通の田舎町にあるような店ですが、以前は村役場だった館を改装して、その店の中だけは豪華絢爛な別空間の素晴らしい店でした。この店にはパスタだけのフルコースと名付けられたコースがあり、デザートに至るまで全てパスタを使ったものでした。当時はユーロが導入される前で、リラ建てで約6000円程度の手頃な価格で、このコースが堪能できました。そしてシェフやギャルソンの暖かみのあるもてなしも、店の雰囲気も、パスタの味も大いに気に入っていました。しかし、その後はル・レ・エ・シャトーメンバーになったり、数多くのマスコミ等で取り上げられて有名になり、以前の味からはほど遠い店になってしまいました。食べ歩き仲間の友人が近年行った時も、味も普通で、たいした特徴はなく、値段もユーロ導入後に倍増されて昔の良きリストランテの面影は無くなってしまったと聞かされました。良い店がまた一つ消えてとても残念に思います。

 今でも時々無性にその当時の絶品のパスタが食べたくなります。
「ああー美味しいパスタが食べたーい」

http://www.ristoranteambasciata.com/