美食のスーパーノバ その2 食は一代限り

天ぷら「天峰」 峯岸 芳治

 天ぷらは瞬間芸術です。核兵器の起爆装置のようなミリ秒単位の正確さが要求され、そのタイミングを外すと全てが水の泡と消えます。当然食べる側にも覚悟が必要で、おしゃべりしている暇などありません。絶妙のタイミングで揚げられた天種をサッと塩をつけて口に運び込めば、珠玉の幸せが訪れます。
 30年以上前からこの天ぷらと言う食べる芸術品に魅せられて、数々の店を食べ歩きました。赤坂の「楽亭」は今の店の反対側に店を構えている時代から、素晴らしい揚げきりに魅了されて、よく通いましたし、茅場町の「みかわ」や麻布十番の「よこ田」などに足繁く出かけては、その職人技を堪能してきました。

 そうして今から20年ほど前に、当時狛江にあった「天峰」と出会い、今日まで最も多く通う江戸前天ぷらの店になりました。芸術的と言える完璧な火加減の揚げきり、リーズナブルな価格、峯岸さんの素材選びと、頑固な職人魂など全てが完璧な天ぷら屋だと思います。しかし、彼の店には、弟子が居らず、一人息子も全く店を継ぐ気がありません。彼も今は60才そこそこですので、最も脂の乗り切っている時代を迎えていますが、永遠にこの状態が続くはずもありません。だから私は今、食べておかないと伝説となってからでは遅すぎると考えて、ひたすら通っています。

 天気や温度、湿度を勘と経験で的確に見極め、天種に最適な揚げを施し、天ぷらを芸術品のレベルにまで昇華させた峯岸さんの天ぷらに、私は今、ぞっこんなのです。

天峰 (てんみね)
東京都世田谷区砧8-13-8
03-3415-3885
水曜定休